RooTS Vol.05 『秘密の花園』福原充則&玉置玲央&川面千晶 インタビュー
インタビュー
2017.12.27
出演者は全員、個性のスペシャリスト。
現在の日本の演劇の流れを決定付けた、1960〜70年代の小劇場運動。そこで生まれた名作を、創作のエンジンに上質のオイルが回り始めた世代の演出家に託す──。「RooTSシリーズ」第5弾で唐十郎の『秘密の花園』を演出する福原充則と、出演者の玉置玲央、川面千晶に、唐ワールドの魅力と同作への意気込みを聞いた。
──まずキャストのおふたりに、唐作品、また、唐十郎さんについてどんな印象をお持ちだったかお聞きしたいのですが。
川面「唐さんの舞台は大学の頃や、卒業して東京に来てからも観ています。ただ、正直に言うとよくわかりませんでした。それなのに見終わった後に、トンカチで殴られたみたいにジーンとなって、しばらく動けなかったんです。わからないのに感動してしまう、そういう不思議な作品です。」
玉置「僕も以前から状況劇場(唐主宰の劇団)を観ていましたけど、唐十郎という人はレジェンドで、俳優としては異形の人だという印象を持っていました。自分がその作品に出ることは、まったくイメージしていなかったですね。」
玉置玲央
──出演することを前提に『秘密の花園』を読んだ感想は?
川面「何度読んでも入って来なくて……。その後、DVDを観させていただいて、やっと少し理解できました。」
玉置「読んだだけだと難しいよね。誰が誰やら、わかりにくい。」
福原「役名の表記が、同じ人なのに(漢字、平仮名、片仮名と)変わるし(笑)。」
川面「で、DVDを観たあともう1度読んだら、意外と何も起きていない話なのかもしれないと思ったんです。舞台では、窓を開けたら大量の水が入って来る仕掛けがあったり、音楽が劇的にバーンとかかるから「大事件!」みたいな感じになりますけど、お話そのものは、近所の人が集まって、あるアパートに住んでいる人たちの恋愛沙汰の話をしているような、それぐらいシンプルなのかもしれないって。」
──とてもおもしろい指摘ですね。
福原「でも、まさにそうなんですよ。唐さんの戯曲に描かれている感情はとてもシンプルなんです。ただ、その大きさ、強さが、部屋の中に突如ボートが現れる、というところまでやらないと伝わらないところまで育っている。」
──スペクタクルな展開は唐作品の特徴ですが、それは、人物の内面の動きを具体的に可視化したものだということですね。
福原「もうひとつ、僕が感じている特徴は、話が大きく展開するのは長ぜりふの中だということ。他の多くの芝居のように、場所が変わったり、新しい登場人物が出てきて話が転がっていくのではないんです。で、これがすごく難しい。せりふの中のワンダーな部分を、ちゃんとお客さんに届けてイメージを想起させないと、何も起こっていないことになってしまうので。」
玉置「突然、それまで出てこなかった固有名詞が当たり前のように出てきたり、平気で突拍子もない話題に変わるのは、そのワンダーの部分なんですね。」
福原「接続詞がないんだよね。「これ、昔の話なんだけど」といったクッションは一切ない。」
玉置「でも劇中の人たちは普通に会話を進める。」
川面「そうなんです、だから最初はわかりにくい。」
川面千晶
──それでもなお、唐戯曲が多くの人を魅了しているのはなぜだとお考えですか?
福原「チラシのコピーにも書いたんですけど、感情が全て詰まっているからだと思います、1本の戯曲の中に。言いたいことがたくさんあるんでしょうね。たとえばこうして喋っている時に、メインの話と並行して、目に入った机の色や木目の感じも全部言葉にする。それがせりふになっているのが唐さんの戯曲だと気が付いて、僕は感動したんです。」
──唐突で過剰、でも詩的な飛躍がある。そんな唐戯曲をどう演出するか、具体的な作戦は?
福原「唐さんの戯曲は、あまり作戦を練らないほうがいいのかなと思っています。というのは、唐さんがノリで書いたところも真面目に解釈してしまいそうで。」
玉置「ノリで書いたところ、ありますね。「ごめんごめん、ごめんね二郎〜」とか(笑)、当時の歌やギャグがいくつも。流行っていたのもあるでしょうし、唐さんはあえてそういう(文学的でない)ことも「台本に乗せてやれ」と考えたんじゃないかと思うんです。福原さんがどこまで忠実にやるかわかりませんけど。」
福原「一字一句そのままやるよ。」
玉置「おお、それは楽しみです(笑)。」
福原「だからまぁ、自分の劇団の座付き作家が書いたぐらいの、大胆な気持ちで演出するのがちょうどいいかな(笑)。あるいは、唐さんはご自分のことを「誤読の天才」とおっしゃっているので、それにならって自分で書いたと錯覚する(笑)。」
福原充則
──玉置さんと川面さんは、詩的で大胆な唐さんの言葉にどうぶつかって、あるいは、かわしていこうとお考えですか?
玉置「今回の舞台に限らずですけど、最近、僕はお芝居って「好き」とか「楽しい」という気持ちで、案外、いろんな壁を突破できて、なおかつ、良いものが出来るんじゃないかと考えるようになってきて。求道的に鬱々しながらつくるんじゃなく、「家を出たら天気が良い」という理由で頑張ってねでいいんじゃないかって。唐さんのせりふが好き、福原さんを信頼している、それで突破しようと今は考えています。」
川面「私はハイバイという劇団に所属していて、その主宰の岩井(秀人)さんが、どんなせりふでもどんな役でも(素の)自分に近づけること以外は興味がないと言っているんです。最初にそれを聞いた時は、演劇は別の人になるためにやると思っていたので驚いたんですね。その方法は自分には出来ないと思っていたんですけど、日に日に興味が湧いてきて。それって今回で言うと「唐さんの作品だからこういう感じだろう」という外からの情報ではなく、自分のこととして考えていくことなのかな、と解釈しています。それで、共演者の方や福原さんに共鳴して自然に変わっていけたら、結果的に良いものになるのではないかと思っています。」
福原「ふたりとも良いですね。僕、役者にはロックスターみたいな感じでいてほしいんです。楽しんでやってほしいし、自分の名前でチケットを完売にするぐらいの意気込みでいてほしい。客席で観ていても、役者が楽しそうな舞台が1番好きなんですよ。役者は自分の個性のスペシャリストでいてほしいというか。もちろん、コードは覚えておかなければいけないし、リズムはキープしていてほしいですけど、あとは役者が自由に振る舞ってくれれば良い舞台になると信じているところがある。主演の寺島しのぶさん、柄本佑さん、田口トモロヲさんはもちろんですけど、出演者全員、そこが信頼できる人にオファーしました。だからきっと、役者を観ているだけでおもしろい舞台になると思います。」
インタビュー・文/徳永京子
RooTS Vol.05 『秘密の花園』 公演情報は ≫コチラ