演劇最強論-ing

徳永京子&藤原ちから×ローソンチケットがお届けする小劇場応援サイト

【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2017/06)― dracom祭典『空腹者の弁』

ひとつだけ

2017.06.8


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?

2017年06月 藤原ちからの“ひとつだけ” dracom祭典『空腹者の弁』
2017/6/9[金]~6/11[日] 大阪・ウイングフィールド


dracom title-01

フワッとしている。フィリピンでの滞在制作を終えた後、横浜の家には帰らずに、関西空港からそのまま京都入りした。いちおう仕事のためだけど、時差ボケみたいにフワッとしている。京都の演劇やダンスの人、音楽の人、映画の人に会ったりしているけど、ここ(どこ?)ではそういうジャンルの境目もよくわからないし、どことなく、長い夢を見ているようでもある。

情報は入ってくる……けど、正直SNSも熱心には追わずにぼんやり眺めているだけだし、東京周辺の情報にしても、遠い世界のできごとのように映っている。演劇関連で最近もっともリアリティを感じられた情報は、「贅沢貧乏が中国・杭州に下見に行った」というエピソードだった。ここ(どこ?)からだと、東京に行くのも、杭州に行くのも、さして変わらないような気もする。モビリティの時代。機動性、流動性の時代。アーティストは移動を続け、各地でゲリラ的な活動を繰り返している。もはやどんな目利きの観客やジャーナリストでさえも、その活動のすべてを網羅することはできない。

その散発的な活動をチェックする上で、SNSは欠かせないツールである。しかし個々人が日々摂取する情報量がおそらく閾値を超えた今、もう、みんな別に、情報を欲してないよね、という空気を感じる。ただの空気だから思い違いかもしれないが、とにかく、飽和状態なのは間違いないだろう。人間の吸収力には限りがあるし、一日中スマートフォンを開いていたらちっちゃい脳みそなんてパンクしてしまうに決まってるやないか。そんな中、いちおう情報発信者の端くれとして、いったい何を観客や読者にお届けすればいいのだろう?とは考える。いっそのこと情報発信をやめてしまおうかと思うこともなくはない。

けれど一方では、必要な人に必要な情報が届いていないのもまた事実。だとしたら、そこでまだ自分にできる仕事もあるだろう。わたしにはまだかろうじて届けたい情報があるし、誰か必要な人が、それをキャッチしてくれたら嬉しい。

前回作 dracom祭典 『今日の判定』より 写真:TAKE nob


dracomという集団について。結成25周年、と聞いて驚いてしまう。主宰の筒井潤氏が年齢より若く見えるせいなのか何なのか。いずれにしても、25年=四半世紀、劇団を続けるのは並大抵のことではない。しかも、大阪で。……と書くと、大阪の人は怒るかもしれないけど、文化芸術に対する理解のなさでは定評のある大阪で、25年もしぶとく生き残ってきたその背景には、きっと並々ならぬ苦難の道のりがあったと思う。いつか、筒井さんにインタビューしてdracomの道のりについてしっかり伺ってみたい。

正直わたしはdracomのあまり良い観客ではなかった。つまり、これまでほとんど作品を観てこなかった。2010年のF/T公募プログラムで『事件母(JIKEN – BO)』は拝見したけれど、当時のわたしの感覚ではその魅力を十二分に捉えることはできなかった。ただ、何やら面白い動きをしているらしい筒井さんの動向は気にかかっていた。アジア各地にインタビューに行ったり、劇団員ではなく「登録メンバー制」を始めたり……。それでご縁があって去年の今頃、京都のアトリエ劇研で『今日の判定』を観たら、これがとても面白くてびっくりしてしまった。面白くて、と書いたけれど、何が面白かったのか、自分の中で明確な意味をなす言葉が浮かび上がってこなかった。今もまだその正体を掴みきれてはいない。きっとこの不可思議なユーモアが、彼らを四半世紀、サバイブさせてきたのだろう、とは想像してみるものの……。

しかし、ユーモアだけで生き延びることもできない。演劇の作り手にはまた知恵や勇気も必要なのである。『今日の判定』と同時期に上演された『ソコナイ図』は、わたしの観劇史上でも忘れがたい作品になった。大晦日の夜に、世間から見離されて、ゆっくりと息を引き取っていく姉妹の物語。その生から死への時間は、何度も繰り返され、引き伸ばされていく。この時間は何なんやろう……というところまで、時間が引き伸ばされる。優れた演出家はこうやって時間を操ることができるのだ。そして観客は、彼女たちの死を簡単に納得する(消費する)ことはできず、その理不尽な美しさ/醜さの前に佇み、その虚構の(だがおそらくは現実にも存在するであろう)姿を脳裏に焼き付けることしかできない。

前回作 dracom祭典 『ソコナイ図』より 写真:TAKE nob


そんなわけで、今回上演されるdracomの『空腹者の弁』は、20年前の1997年に初演され、その後2回再演された作品だとのことだけど、わたしはそのいずれの回も観ていないし、どんな内容かもまだ知らない。会場のウイングフィールドが住居だった頃の時代の間取りを再現するとか、俳優がサイコロを振るらしいとか、いくつかの情報は入ってくるけれど、とにかく実際にこの目で観て確かめてみたい。たまたま見たFacebookページには「せっかく頑張って積み上げてきた25年の歴史が今、台無しになる!!」と書いてあった。台無しにしちゃうのか! なんと、まあ……!


≫ dracom祭典『空腹者の弁』 公演情報は コチラ

演劇最強論枠+α

演劇最強論枠+αは、『最強論枠』の40劇団以外の公演情報や、枠にとらわれない記事をこちらでご紹介します。