演劇最強論-ing

徳永京子&藤原ちから×ローソンチケットがお届けする小劇場応援サイト

【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2016/2)―『赤レンガダンスクロッシング for Ko Murobushi』

ひとつだけ

2016.02.1


あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?

2016年2月 藤原ちからの“ひとつだけ”『赤レンガダンスクロッシング for Ko Murobushi』
2016/2/20[土]、21[日]横浜・赤レンガ倉庫
akaren-dx
【室伏鴻 1947〜2015】

* * *

吾妻橋ダンスクロッシングが帰ってくる!
今回は、昨年急逝した舞踏家・室伏鴻を偲ぶ「<外>の千夜一夜 Vol.2」の一環として、横浜・赤レンガ倉庫で土・日の2日間。

もはや若い観客にとってはすでに「歴史」かもしれず、あるいは聞いたことないという人もいるかもしれないが、吾妻橋DXというのは、2004年から2013年まで、浅草のアサヒ・アートスクエア(ここも3月で閉館してしまう)を舞台に毎年1〜3回繰り広げられたオムニバス企画である。10〜15分ほどの実験的な小作品をいっぺんにたくさん観られるということもあって人気があり、ウェブ上のアーカイブを見ればお分かりのように、出演アーティストも錚々たるメンバーが参加してきた。ふだんあまりダンスや演劇を観ない層にとって「とっつきやすい」イベントであったと同時に、アーティストにとっては実験的なことを試せる場でもあり、誤解を恐れずに言えば、「失敗」が許される場でもあったと思う。会場ではアサヒビールを販売していることもあり、なかなかのお祭り感があったのだ。後半の何年かは演劇系のアーティストが多数を占めるようになり、「もはや『ダンス』クロッシングとは呼べないのでは?」とも囁かれていたが、それは「ダンス」「演劇」「音楽」といったジャンルからはみ出てしまう先鋭的な表現を、この吾妻橋DXが擁護・援護射撃してきたことの証でもあったと思う。

そんなわけで今回、大谷能生&桜井圭介がキュレーションする赤レンガバージョンもジャンルレス感が漂うが、強いていうなら「演劇」からは岡田利規や飴屋法水らが参加、さらには実験的なダンサー、音楽家、美術家などが名を連ね、観客にとってお得感のある、福袋のようなイベントになりそうだ。けれど一方では往年の吾妻橋DXから顔ぶれが大きくは変わってないのもまた事実であり、初開催から干支でひと回りしたこの2016年にあって、色褪せないもの、生き生きとしたもの、何か新鮮な風のようなものを、ぜひ吹かせてほしいとも願う。

吾妻橋DXオーガナイザーの桜井圭介は、リリースで次のように述べている。

「室伏さんが『俺にかこつけてデタラメ放題やりやがって』と苦笑(激怒?)してもらえるようなプログラムを心がけました。」

「デタラメ」は、「コドモ身体」や「グルーヴ」と並んで、ダンス批評家・桜井圭介の最重要キーワードである。わたしの解釈ではこの「デタラメ」というのは、単に未熟で稚拙なまま大騒ぎするということではない。そうではなく、それぞれが培ってきた何かを賭けて他人の前でパフォーム(上演)するということであり、そのことによって生じる毀誉褒貶や評価の上昇・下落、ツイッターの炎上、謝罪の強制、ファンによる裏切り者呼ばわり、大人の事情、そのほか各種の同調圧力……etc.を気にかけることなく、とにかくどこかの極点にむかってアーティストとして振り切ってみせるということだ。

確かに吾妻橋DXはダンス・演劇・音楽を、その批評的文脈においても、客層においても、越境的に繋いでいく貴重な場として機能してきたが、その数々の果敢な挑戦にもかかわらず、日本の舞台芸術から「デタラメ」をしてやろうという機運やエネルギーは、むしろこの十数年で減少の一途をたどってきたのではないかと感じる。2011年の震災の影響も大きいのかもしれない。コンセプチュアルな(意図的・意識的な)作品が増えた。それはそれで、長いあいだ消費文化を貪ってきたこの娯楽大国・日本にあっては重要な転回ではあるのだが、特に若いアーティストや観客にとっては、もっともっと「デタラメ」なエネルギーが必要なのではないかと思う。要するに、小さくまとまるにはまだまだ早い、あまりにも早すぎる!、ということだ。特に身体を扱う舞台芸術において、その主たる観客である日本人の身体を、同調圧力(規律権力)に屈する卑小なものにしてしまうのか、それとももっと自由でグルーヴィーでエネルギーに充ちたものにしていくのかは、ものすごく問われる。現在のアーティストの動向いかんによって、未来の日本人の身体の在り方、そして生き方が、変わっていくといっても過言ではない。

今回の出場者でいうとcore of bellsあたりは「デタラメ」の申し子的存在なので心配は無用(ある意味すごく心配!)だが、その他のみなさまにおかれましても、どうかそれぞれの「デタラメ」をやりきっていただきたい。

≫公演情報はコチラ

演劇最強論枠+α

演劇最強論枠+αは、『最強論枠』の40劇団以外の公演情報や、枠にとらわれない記事をこちらでご紹介します。