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ロロ『はなればなれたち』三浦直之 インタビュー

インタビュー

2019.06.1




『はなればなれたち』は、
「三浦さん、劇団って何ですか?」と聞かれたとして、
自分が理想的だと思える形なんです。


10周年を迎えた劇団ロロが、吉祥寺シアターで新作を上演する。ボーイ・ミーツ・ガールもの、疑似家族ものという初期衝動にこだわりながら、少しずつ世界観と劇場を拡大し、純正物語派としての筋力を蓄えてきたロロ。劇団というアナログな集団の可能性を信じる作・演出家、三浦直之は劇団の誕生から終わりまでを描く物語に、演劇と観客の出会いを託すという。ドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る』の脚本も好評の三浦に、話を聞いた。



── まず、劇団の旗揚げ10周年のことからお聞きします。間もなく開幕の『はなればなれたち』と来年1月に上演予定のもう1本の新作が10周年記念公演という位置付けだと伺っています。単純にアニバーサリーな気分なのか、これを機にリスタートするといった意気込みなのか、そのあたりはどんなふうにお考えですか?

三浦「最初はそんなに意識していなくて、特に10周年と謳わずにやろうかという話も(劇団員の間で)ありました。ただそれとは別に、劇団や自分のこれまでのことを振り返ったり最近のことを考えたりした時に、そういう時間はなかなか自然にはつくれないな、とも思ったんです。だったら、10周年を冠にして劇団と向き合う1年にしようと」

── それは三浦さんが? それともロロ全体として?

三浦「僕がです。メンバーの意見はまちまちでしたね。特に思い入れがないという人、しっかり大事にしたいという人、宣伝として使えるなら使ったほうがいいという人、いろいろでした」

── 三浦さんが、改めて劇団に向き合おうと思った理由をお教えいただけますか?

三浦「ロロは、正式に劇団員として加入したタイミングはバラバラだったりするけど、旗揚げから関わってくれている人も含めて、誰ひとり抜けずに10年やってきたんですね。自分としてはそれは結構、誇りで。でもメンバーが30歳になった2年ぐらい前から、劇団がそれまでと同じような、つまり20代の頃の勢いでやっていくのが難しくなってきて、このままだとそう遠くないうちに誰か辞めていくだろうな、というのを感じました。その時に、これからどうやってロロを続けていくかを考えなくちゃいけないなと思ったんです。10周年は、ちゃんとそこに向き合うタイミングだと捉えています」

── 誰かが辞めるかも、という危機感は具体的なものでもあったんですか?

三浦「そうですね。直接、“このままじゃ難しいかもしれない”と言う人もいました」

── 「難しい」というのは、ロロの一員としてやっていくことがでしょうか? それとも演劇そのものを続けていくことが?

三浦「演劇そのもの、ということでしたね。ただロロという場所も、最初は大学の同級生でつくった集団で、その延長線の関係性でずっと続けてきたけど、もうそれだけでは難しくなってきたということもあるんですよね。先輩と後輩という関係とか友達っていう関係がみんなの間にあるけど、そこをもう1回つくり直さないと、先に行けないかもしれないと、みんな少しずつ思っているんじゃないかと思います」

── ざっくり言うと「プロになる」ということですかね?

三浦「……か、な?」

── ではない?

三浦「うーん……。これがまた難しいんですよね、僕が思っていることとメンバーがそれぞれ考えていることは違うから。僕個人の考えを言うと、世の中にいろいろな場所がある中で、ロロという場所がこうして続いてきたわけだから、これからさらにロロが、他とは違うオルタナティブな場になっていくといいなと思うんです。もちろん(演劇で)食う、食えないというすごくシビアな問題はあるけど、そういうこととは別に、これまで培ってきた関係性を使ったり、もう一度見つめ直したりして、全員が共存できる方法を考えていきたい」



── 劇団の継続が苦しくなった時に、プロデュースシステムに変えたりユニットにしたりという方法もありますが、三浦さんはやっぱり劇団がいいんですか?

三浦「それも今年考えることだなと思っています。自分は続けたいと思っているし、この10年続けられたのはすごくうれしいけど、なんで俺は劇団がやりたいんだろうという問いに、自分の中ではまだ明快な答えが見つからないんです」

── とすると今年は2本の新作のクリエイションを通して、劇団内の関係性や劇団としてのあり方を探る、より強固にする、そして三浦さんがなぜ劇団にこだわるかの答えを見つけていく?

三浦「はい、劇団というコミュニティとは何なんだろうということを、作品をつくりながら考えていきたいという感じですね」

── その結果、今年の公演が終わったら解散ということもあり得ますか?

三浦「いや、それは無い気がしますね。悩んでいるわけではないんです。やりたい気持ちはあるし、やりたいこともある。じゃあ“なんでやりたいの?”と聞かれると明確に答えられないというだけで。……自分でも不思議なんですけど、2年前に“このままじゃやれない”と言われた時から、わりと大きく意識が変わったんです。僕個人に来る仕事の受け方も、自分がどうかより、まず“俺がこの仕事をやったらメンバーはうれしいかな”と考えたりするんですよ」

── 三浦直之としての欲望よりも、ロロとしての欲望の方が今は大きい?

三浦「大きいと思います、特にこの1年ぐらいは」

── 少し話題がズレてしまうかもしれないんですけど、三浦さんのお話を聞きながら、もしかしたら上の世代の人達が劇団を20年続けるぐらいの感覚が、三浦さん達の世代の10年なのかもしれないと思いました。30歳のタイミングで演劇を続けるか辞めるか考えるのは同じですけど、集団で何かをする機会が減っている、世の中のさまざまなアップデートの間隔が短くなっている、継続よりも変化に価値が置かれる、助成金の分だけ成果も早急に求められるといった、内側と外側、両方のプレッシャーがどんどん強くなっていて、かつては20年くらいやって感じた充実感や閉塞感が、今は10年でやってくるのかなと。

三浦「ああ、そうかもしれないですね。僕のまわりで劇団という形にこだわってやっている人はあんまりいません。僕自身、自分より下の世代の人に“劇団はいいよ”と言いたいんですけど“どういうところがですか?”と聞き返された時にスパッと出せる回答はまだ持てていないんですよね。“いや、いいんだよ”みたいなことしか言えなくて、これじゃマズいなと思っているんです。確かに今は、劇団としての大きな物語みたいなものは持ちづらくなっているから、劇団全体で“これに向かおう”という目標も持ちにくい。その都度、それをつくっていくことの積み重ねというやり方しか、僕には見つかっていないですね」

── そう考えると、10年ひとりも辞めずに続いてきたスペシャル感はありますね。

三浦「僕が書く物語に疑似家族というモチーフがよく出てくるのも、やっぱり劇団をやっているからという気がするんです。そこに登場する家族は、仲が悪いわけではないけど、考えていることや欲望がバラバラなんですよね。そういう人達がどうすれば一緒にいられるだろうというのが、僕の書き手としての関心であり、劇団への関心なのかなという気はしています」

── なるほど、興味深いです。

三浦「でも、だからロロは10年誰も辞めていないけど、一緒にいる理由はもしかしたら情に引っ張られてる可能性もあるなと考えて、すごく悩んでるんですけどね。みんな情でつながっているのか、だとしたら、それは悪いことなのか、とか」

── でも『はなればなれたち』は家族の話ではありませんよね。

三浦「劇団の話です」

── むしろダイレクトな方向で(笑)。今、話していただけるところまでで良いので、あらすじを教えてください。

三浦「向井川淋しい(むかいがわ・さみしい)という名前の女の子が演劇と出会い、女優を始めて、劇団をつくって、その劇団を辞めるまでの物語っていうのが、大まかな流れです」

── 辞めるんですか!(笑)

三浦「辞めますね。辞めるんですよね、これが(笑)。でも本当に言いたいのは、演劇についての演劇というか、物語についての物語にしたいということですから。ひとつの集団が生まれることを考えていくのは、劇団を、演劇を考えることに繋がる。さらに、劇団が作品をつくって最後に出会うのは観客だから、観客と演劇の出会いの物語でもある。となると(演者が)語ることと(観客が)聞くこと、(観客が)見ることと(演者が)見られることにもつながるので“話す”と“聞く”は重要なモチーフになってくると思っています。そして語り部になるのがすい中(すいちゅう)という女の子で、物語は、淋しいとすい中が出会う前の第一部、淋しいとすい中が出会ってからの第二部、淋しいとすい中が別れてからの第三部という構成になります。だから第一部はすい中にとっての伝聞、第二部は体験、第三部は妄想とか願望になっていくかと」

── 壮大ですね。

三浦「まだ考えていることはあって、僕はずっと告白を書いてきたんですけど、告白って何だろうと改めて考えると“モノローグのダイアローグ”じゃないかと思うんです。“あなたが好きです”だけだとモノローグだけど、相手がそれに相づちを打つ、その時にモノローグがダイアローグに変わる。自分が告白で描きたかったものは、たぶんそういうものかなと最近思っていて。そのこともこの物語に重なるといいなと思っています」

── 書きたいことがあふれ出ていますね。

三浦「やりたいことが溜まっていたので、これを書くのがずーっと楽しみだったんです」



── 話題になっている曽我部恵一さんとひらのりょうさんのキャスティングについても教えてください。どういう理由から?

三浦「観客を象徴する役を出したいっていうのは、かなり構想の最初から持っていて、その“見る”存在を誰にお願いしようかなと思った時に、逆に自分が見てきた人がいいと思ったんですね。それと観客は少年というイメージがあって、と同時に、自分たちより上の世代の人に出てほしい気持ちがあって、それらが曽我部さんと繋がりました。で、客演の方を別のジャンルからお呼びすると、いかにもゲストという感じになってしまうことがあるので、もうひとり別のジャンルから来てもらってバランスを取りたいと考え、ひらのさんがいいなと。ひらのさんは、自分で紙芝居とかやっていてパフォーマンスもめちゃめちゃおもしろいんですよ。EMCで音楽活動もしていますけど、そのラップもすごく良いので」

── おふたりはオファーに対してすぐにOKだったんですか?

三浦「ひらのさんは最初は悩んでいましたね、自分で大丈夫なのかって。曽我部さんはほとんど即決してくださいました」

── 最後にタイトルについて。とても秀逸ですけど、これは三浦さんが?

三浦「はい。さっきも言ったように、劇団の良さってまだ言葉にできないんですが“三浦さん、劇団って何ですか?”と聞かれたとして、自分が理想的だと思える形はこれなんじゃないかという言葉を思いついたって感じですね」

── ありがとうございました。公演を楽しみにしています。


インタビュー・文/徳永京子

ロロ『はなればなれたち』公演情報は ≫コチラ

ロロ

2009年より東京を拠点に活動する演劇集団。 漫画・アニメ・小説・音楽・映画などジャンルを越えたカルチャーをパッチワーク のように紡ぎ合わせ、様々な「出会い」の瞬間を物語化しながら演劇の枠を拡張した活動を展開。三浦直之・初監督映画『ダンス ナンバー 時をかける少⼥』(製作:ロロ)がMOOSIC LAB 2013 準グランプリ他3冠を受賞。あうるすぽっとシェイクスピアフェス ティバル2014『ロミオとジュリエットのこどもたち』(作・演出:三浦直之)ではロロメンバー出演をはじめ、CM、ドラマ、映画など各⽅面でも活躍中。代表作は『ロミオと ジュリエットのこどもたち』『LOVE02』『あなたがいなかった頃の物語と、いなくなってからの物語』など。『ハンサムな大悟』で第60回岸⽥國⼠戯曲賞最終候補作品ノミネート。★公式サイトはこちら★ ★いつ高シリーズ特集ページはこちら★