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【純粋配信舞台レビュー】北村明子『Echoes of Calling』

舞台とあう、YouTubeで。

2022.03.20


撮影され、編集された演劇やダンスやパフォーマンスを観てレビューを書く──。ライブ原理主義の人には許せない行為かもしれません。けれども、かつてNHKで放送されていた「芸術劇場」で生涯忘れられない観劇体験をした人は数え切れず、あるいは、学校の部室や図書館にあったビデオやDVDで名作に触れて演劇を志した人も大勢います。それなら映像による舞台作品に評があっても良い。部屋で観て部屋で書いたレビューが読む人を動かせると信じます。

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コロナ禍で無観客配信となった公演。異国への想いを掻き立てる動き、歌声、息遣い──北村明子『Echoes of Calling』

森菜穂美(舞踊評論家、舞踊ライター)
@ladolcevita416

配信視聴はこちら( https://www.youtube.com/watch?v=PTYEiwC-02w )

■多様なダンスが展開

振付家・ダンサーの北村明子が音楽プロデューサー・横山裕章と共に2019年よりフィールドリサーチを実施し、日本とアイルランド、そして中央アジアへ発展していく長期国際共同制作プロジェクト「Echoes of Calling」。2021年1月に公演を実施する予定が、新型コロナウィルスの感染拡大により、直前に無観客配信公演となった。

今回はアイルランドよりドミニク・マッキャルー・ヴェリージェ、ダイアン・キャノンと二人の歌手を招聘した。温もりのあるフォークロア的な歌声が、今では簡単に行き来できなくなった異国への想いを掻き立てる。水滴の音、雲や霧、雷鳴といった自然の音と、ダンサーの足音と息遣い、歌声そして打楽器のリズムがヘッドフォンを通してポリフォニックに響いてくる。静と動、モノクローム基調ながら光と影の対比、歌の入る箇所と、構成も練り上げられている。

北村明子自身が優れた踊り手で印象的なソロをいくつか踊る。そして共演の6人のダンサーたちはそれぞれ異なったバックグラウンド、個性を持ちながら、彼女特有の舞踊言語、そしてクロス・カルチャー的な世界観を精密に体現した。マーシャルアーツを思わせる、対決姿勢のコンタクト・デュオは激しくて闘鶏のよう。高速で旋回しながら跳躍し落下し転がっては立ち上がるストリートダンス的な疾走感。アンサンブルのダンスも完全なユニゾンはほとんどなく、タイミングをずらした動きがスリリングで、ダンサーたちの輪の中に一人ずつ入って行き踊るところは民族舞踊的なトランス感に酔う。腕の動きなど、他では見たことのないようなムーブメントも多用される。55分の間に多様なダンスが展開し、クライマックスに向けて昂揚していく。

川合ロン、香取直登など技量の高いダンサーたちが集まっているが、中でも中盤以降の西山友貴のしなやかで強靭ながら脆い内面もさらけ出すようなソロが鮮烈だ。彼女の周りをぐるりと回りながら取り囲むような群舞の後に登場する北村の、祈りのような、声にならない叫びのような独白との対比も心打たれるものがあった。

■息遣いが伝わる音響効果

配信映像は舞台美術と映像も手掛けた奥秀太郎が監督し、ライブとは異なる視点で作品を味わえた。複数台のカメラを配置しているがカット割りは多すぎず、作品本来の魅力を伝えながらも作家性も発揮されている。時折挿入されるクローズアップが効果的。背景映像も、冒頭の手の大写しからのダンサーたちの手の動きへの連想、手書きのテキスト、霧や水滴などアイルランドの自然の表現、舞台上のダンサーを別撮りした映像、大写しの裸足などが印象的だが、決して煩くなく抑制されていた。マルチな映像の視点、郷愁を感じさせる柔らかい歌声や息遣いが伝わる音響効果をじっくり味わえるのは、映像配信ならではの魅力だ。

今は以前のような異文化交流も困難となっている。映像の中でアイルランド文化を始め、多種多様なカルチャーが共存することを体感し、まだ見ぬ国への想いを募らせるのもまた、映像配信の醍醐味ではないか。

なお、「Echoes of Calling」の2作目、中央アジアをテーマとした「Gushland」公演は、2月18日より無事ライブ公演として東京のスパイラルホールにて開催された。

視聴環境:PC&ワイヤレスヘッドホン



撮影:大洞博靖 Hiroyasu Daido

北村明子
『Echoes of Calling』
演出・振付:北村明子
出演:香取直登(コンドルズ)、川合ロン、西山友貴、岡村樹、永井直也、近藤彩香、北村明子(以上ダンサー)、ドミニク・マッキャルー・ヴェリージェ、ダイアン・キャノン(以上歌手)
2021年
スパイラルホール

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もり・なおみ/舞踊評論家、舞踊ライター。ダンス・バレエを中心に記事を執筆・翻訳。新聞、雑誌や海外・国内のWEBサイト、バレエ公演のパンフレットに日本語/英語で寄稿。監修した書籍に『バレエ語辞典』『バレエ大図鑑』がある。



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