【連載】ひとつだけ 藤原ちから編(2017/08)― 地点『汝、気にすることなかれ』
ひとつだけ
2017.08.10
あまたある作品の中から「この1ヶ月に観るべき・観たい作品を“ひとつだけ”選ぶなら」
…徳永京子と藤原ちからは何を選ぶ?
2017年08月 藤原ちからの“ひとつだけ” 地点『汝、気にすることなかれ』
2017/8/5[土]~8/20[日] 京都・アンダースロー
演劇についてそれなりにアンテナを張っている人であれば、この名前を聞いたことがあるだろう。京都のアトリエ・アンダースロー。8月20日まで、ここで劇団・地点の新作『汝、気にすることなかれ』が上演されているから、未踏の人はぜひこの機会に潜入していただきたい。
地点の稽古場・劇場であるアトリエ・アンダースローは、オープン(2013年7月)以来、5年目に突入している。地点はここ数年、各地に遠征しての公演が続いていたが、今年はほとんどの時間を京都で過ごしているらしい。つまりこの地下のアトリエに籠もって新作をつくりつつ、レパートリー作品を次々と上演。文字通りの《地下活動》を展開しているのだった。
そのおかげでこの夏、わたしはアンダースローで地点のレパートリー作品である『ブレヒト売り』『ファッツァー』『ヘッダ・ガブラー』『地点の近現代語』を立て続けに観ることができた。ほぼ毎週のように同じ俳優たちのプレイを、でも違う演目で観るというのは、なかなか新鮮な体験だった。もちろん根底には地点とその演出家・三浦基の演劇観や思想が流れているとはいえ、どの作品も毎回異なるアイデアが採用されていて、バラエティに富んでいる。地点というと、特殊な発話をする「地点語」のイメージが定着しているが、実はその舞台がアイデアの宝庫である、という側面はもっと注目されていいポイントだと思う。
2000円、という演劇にしては破格の値段設定(および、無料でも観られる カルチベートチケット )もあってか、アンダースローの客席には若い人たちが目立つようになっている。終演後にロビーでビールやワインを吞みながらおしゃべりできることもあって、リラックスした雰囲気の中で、若い観客たちが目をキラキラさせながら、今上演を終えたばかりで汗もまだ引いてないような俳優を囲んで熱心に質問していたりもする。今やアンダースローではすっかりお馴染みの光景だが、実はそれってすごく貴重な、夢みたいな環境ではないだろうか。日本で、いや世界で、そういう場所はいったい幾つあるだろう?
さて現在のアンダースローでは、エルフリーデ・イェリネクの『汝、気にすることなかれ』が上演されている。イェリネクの戯曲は豊富な知識に裏付けされた独白から成り立っており、難解とか言われることも多いが、テクストをコラージュする地点のやり方との相性は抜群にいい。この新作についてはまだ観ていないが(来週観ます)、過去の地点作品から類推してのオススメの観劇方法は、言葉の意味の繋がりを追うのはあきらめて、ひたすら繰り出される言葉の洪水をまずはたっぷり浴びてみること。どのみち1回の観劇ですべての意味を理解しようなんて(たぶん誰にも)無理だから、まずは浴びてみて、自分の目や耳や脳内から浮かび上がってくる《反応》を楽しむのがいいと思う。つまり(何かをインプット&アウトプットする容れ物である)自分の身体を信じればいい。意味は、後からでも充分だ。
今回も前2作と同じく、音楽は三輪眞弘。理論(ルール)に裏付けされながらも、きわめて体感的に身体に語りかけてくる三輪の音楽は、どんなふうにあのアンダースローの小さな空間に鳴り響くのだろう?
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最後に余談を。 カルチベートプログラム が復活するらしい。アンダースローで上演される7作をすべて観て、レクチャーを受講し、最後に報告エッセイを書くというなかなかハードなプログラムだが、全部無料(!)という超大盤振る舞いの企画。2014年、2015年にはわたしもレクチャー講師として参加させていただいたのだが、受講生たちの高い意欲のおかげで、わたし自身が相当にカルチベートされた気がする。今年の締切は8月14日(月)。例えばまだ何ものになるのかよくわからないけど何かはやりたい人とか、自分の殻を突破してみたい人とかは、ぜひ、応募を。
≫ 地点『汝、気にすることなかれ』 公演情報は コチラ